会報48 (平成2年)
プリペイド・カード拝観について
京都仏教会

 京都の社寺を対象に大手商社・銀行がプリペード・カード会社を設立し、当面嵯峨野地区六ケ寺の拝観ができる「コトカード」が九月二十七日より発売された。このカードによる拝観方式は、社寺に読み取り機を設置し、カードを機械に入れると自動的に拝観日時・残額等が裏面に記録されるシステムで、六ケ寺のほかホテルでの販売も予定されており、カード会社によると、来春には東山地区の十社寺にも範囲を拡げ、将来は京都と奈良の百社寺以上で共用できるようにしたいとしている。

 当会では九月二十一日、緊急理事会を招集し顧問弁護士らを交え、この件について詳細に検討した結果、カード拝観は宗教行為の商品化及び拝観者とそれを受ける寺院との宗教的関係を破壊するおそれがあり、この方式に反対することが決議された。以下の見解書が、京都、奈良、滋賀の約百五十の各対象寺院に送付され、観光業界の協力を得てカード会社・旅館・ホテル協会等にも同様の主旨の依頼書が送付された。

ブリペイド・カード拝観に関する見解書

 貴寺におかれましてはご健勝のことと存じあげます。
 さて、本年九月二十日の新聞各紙にて報道されました「プリペード・カード拝観」に関して、京都仏教会では、二十一日、理事会を開催し、それを詳細に検討し、以下の見解を議決致しましたのでお知らせ致します。

一 議決
 今回「プリペード・カード拝観」として実施されようとしている拝観方式は、宗教行為としての寺院拝観行為と、その際の拝観者より寺院に納入される布施、あるいは喜捨金としての拝観料の双方を、根本的に否定するという重大なる疑義があり且つ消費税並びに宗教法人の収益に対する課税の口実にされるおそれがあるのでこの方式に反対する。

二 議決に至った理由説明
 1 古都税紛争の過程で、京都仏教会は、寺院に対する拝観行為が宗教行為ではなくて鑑賞行為にすぎないという理由で、拝観行為の際に拝観者から納入される拝観料に、古都税を課税するのであると言う誤った理屈に大いに苦しんだ経験があります。

 2 この度の消費税の性格は仏教会が集会や会報などを通じて、繰り返し申し上げてきましたように、古都税とその性格を一にするものであり、拝観料に対する課税の危険性が極めて大きいものであります。現在の政府当局者が「課税しない」と言ったからと言って決して安心できるものではありません。法律の条文とその解釈からすれば、いつ、政府当局の解釈や判断が変化してもおかしくないのです。 政府の宗教法人に対する課税強化の試みは、何時、復活、強化するか知れません。

 3 ところで、「プリペード・カード」による拝観方式は、拝観者と 拝観を受ける寺院との宗教的関係をカード会社と銀行等が介在することによって破壊し、拝観料は、拝観者からの寺院に対する布施、喜捨金としての性格を喪失するに至るものではないかと、危惧されます。 この拝観方式は、宗教行為の商品化であり、拝観行為が宗教行為であると言うよりは、単なる寺院入場券と言う側面が強化されることになり、約一世紀をかけて定着してきた拝観という宗教行為を寺院自らが放棄することとなり、この様なことを寺院が繰り返して行っておりますと、消費税は勿論、宗教法人の収益事業として受けとられ、課税の対象となるおそれがあります。このことは、古都税問題で寺院が問われた様々な社会的批判をさらに増幅することとなり、この様なことは絶対避けるべきことと考えます。 たとえ一ケ寺でもこの方式を受け入れますと、他の寺院全てに悪影響を与え、寺院に村するイメージの低下は必至であります。 なにとぞ、貴寺におかれましても、右仏教会の見解を御理解いただき、このカード方式の導入は、差し控えていただきますよう、お願い申し上げます。

     平成元年九月二十二日

     京都仏教会理事長  有 馬 頼 底


*この件に関しまして、法律上、その他いかなる問題につきましてもご相談に応じますので、当会までお問い合わせ下さい。

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