京都府知事への申入書「北陸新幹線延伸問題」/京都仏教会(令和6年12月19日)

京都府知事への申入書「北陸新幹線延伸問題」

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京都府知事
西脇 隆俊 殿


申入書

 現在問題になっております北陸新幹線延伸事業の「小浜・京都ルート」は、丹波山地を貫く長大な山岳トンネルと京都市内および新大阪駅までのやはり長大な大深度地下トンネルで構成される予定であり、北山・東山ならびに西山では水枯れが、市内では地下水位低下や地下水脈の途絶、地盤沈下・陥没が予想されます。また、膨⼤なトンネル残⼟にはヒ素が含まれている可能性があり、地下⽔汚染も大いに危惧されることと存じます。

 全体の80%がトンネルとなる小浜・京都ルート(敦賀-小浜-京都-京田辺-新大阪)は、豊かな水の恵みによって成り立っている京都が京都でなくなる計画であります。トンネルの耐用年数はたかだか数十年。そのトンネルによって京都の1200年の歴史と未来が揺らごうとしていると当会では考えます。

 北陸新幹線は1960 年代に構想されました。当初は米原ルートが想定されていましたが、当時の福井県知事が原発増設許可と引き換えに小浜ルートを国から引き出したと言われています。まさに「我田引鉄」です。その後、米原ルートの再浮上もありましたが、2016年に与党PTの検討委員会はJR西日本が提案した京都市街地を通る「小浜・京都ルート」(小浜ルートの修正案)に決定したと聞き及んでおります。

 しかし、今も工事着工の目処が立っておりません。これは、国土交通省も認めるように、このルートがあまりにも多くの難問を抱えているからであり、遅れの最大の原因は小浜・京都ルート計画そのものにあると言っても過言ではありません。しかも、開通は人口減少がさらに進む30年後と言われています。

 この計画にはいくつもの大きな問題があります。決定権限を与えられた与党PTは、小浜・京都ルートを推す福井県選出議員によって主要ポストが占められ、その決定が国の最終決定になります。これでは「我田引鉄」に対するチェック機能は働かず、地元の府県民や市民の意見は計画に反映されません。そんな意思決定に正当性があるのかという疑問が残ります。

 JR西日本の建設事業費の過小負担と府県民・市民負担の大きさも問題です。事業費は国と地方自治体が負担し、JRは「貸付料」を支払うだけです。JR西日本には、JR東海との路線共有がなく旅客需要の大きい小浜・京都ルートがベストであり、事業費が5兆円超という巨額になろうと、地盤沈下などで補償問題が紛糾しようと、そして地下水や環境への影響が増大しようと、JR西日本は負担が増えるわけでもなく、また責任を負うこともありません。当初予定よりも膨らんだ建設事業費は、結局、国民全体と府県民・市民の税負担や行政サービスの削減などによって賄われます。ある試算によれば、事業費が5兆円の場合、京都府と京都市の実質負担額はそれぞれ6120億円と374億円となっています。これを、子どもを含めた一人当たりに換算すると、それぞれ府民13万円と市民2万5千円となり、京都市民は一人当たり合計15万5千円の大きな負担となります。

 小浜・京都ルートは、大規模災害時の迂回路として重要であり、「国策」事業として絶対に建設が必要であるとの意見もありますが、南海トラフ大地震発生時に小浜・京都ルートの長大トンネルが抱えるリスクは途方もなく大きくなります(停電による車両への乗客の閉じ込め、トンネル火災、津波・洪水による大規模浸水、大地震によるトンネルの破断など)。これでは迂回路として機能しません。現在、東京—大阪間のルートの多重化は高速道路網によってすでに実現しています。

 そして、最も大きな問題が、京都の地下水への悪影響(水位低下、枯渇、汚染・汚濁)です。はじめにも述べたように京都は水の恵みによって生かされている町です。京都の名水は伏見の酒造りや豆腐、和菓子作り、京料理などに活かされています。東京や大阪などの巨大都市の水とは異なり、まさに京都の水は「生かされ生きる水」なのです。

 現在、さまざまな問題を抱える小浜・京都ルートに対して距離、建設期間、事業費などで優位な米原ルートの復活を求める声が大きくなっています。しかし、両者を、さらには舞鶴ルートなどを比較する際に基準とされてきたのは、事業費や費用便益比という経済的視点や乗り換えや乗り入れなどの技術的視点が中心であり、京都の地下水問題、地盤沈下や陥没の危険性、大量のトンネル残土やそのヒ素汚染などといった市民生活を脅かす問題への視点はあまりにも軽視されているといわざるを得ません。

 さらに、京都市内では、京都の名刹の真下を通るルートが設定されており、国宝、重要文化財への影響も大いに危惧され、京都仏教会として到底看過できるものではありません。

 これらのいずれの視点から見ても、長大な山岳トンネルと大深度地下トンネルで構成される小浜・京都ルートは最悪のルートであると言わざるを得ず、ルートの見直しが是が非でも必要です。

 また、技術的視点について言えば、JR各社が運行システムの相違などを理由に相互乗り入れの可能性を否定するならば、それは大災害時に全国を網羅しているはずの新幹線網が実は役に立たないと宣言しているに等しいことになります。

 尊い自然は決して人の支配の対象ではなく、本来は敬いながら共存すべきであるという仏教の教えにも著しく遊離するこの計画は「千年の愚行」であり、京都仏教会は本申入書をもって断固たる決意の下に計画の再考を強く求めるものであります。

令和6年12月19日 

一般財団法人京都仏教会
理事長 有馬 賴底