宗教情報リサーチセンターの目指すもの
平成11年(会報「京佛」六十六号)
国際宗教研究所宗教情報リサーチセンター長
國學院大學 名誉教授
井上順孝
宗教法人法の改正のときにあらためて再確認したのは、現代日本においては、宗教という存在がいかに軽くなったかということである。国会における法改正の議論はおざなりであり、また、マスコミとりわけテレビは、宗教の存在意義よりも、その危険性について論評することに多くの時間を割いた。
人々は、宗教が税制上優遇されているにもかかわらず、それに見合った情報公開をしておらず、反社会的活動すら少なくないというイメージを強くもった。しかし、実はそれ以前から、社会の「宗教」に対するイメージは、宗教関係者が思う以上に悪くなっていた。若い世代ではとくにそうで、アンケート調査などしてみると、「宗教」というと、「アブナイ」「洗脳」といった連想をする者が少なくない。なぜこうなったのであろうか。
伝統宗教に関わる人々は、昔からの感覚で、黙っていても、自分たちの活動には社会的認知があると思っている。したがって、積極的にその歴史や現状について説明する姿勢をあまりもたない。しかし、人々の宗教についての知識はおそろしく乏しくなっている。団塊の世代がもともと宗教に関心のない人が多く、その子供たちが育ってきて、いわば「無宗教第二世代」になつている。ジャーナリストが宗教について報道する場合も、基本的知識に欠ける場合が少なくない。その傾向はますますひどくなる気配がある。
こうした状態は、日本の宗教文化にとって、決して好ましいものではないだろう。昨年十一月オープンした宗教情報リサーチセンター(略称ラーク)は、実はこうした状況を少しでも改善したいというのが、大きな目的の一つである。
ラークの母体である国際宗教研究所は、一九五三年に財団法人として認可されている。アメリカ人の日本宗教研究家W・P・ウツダート博士と、東京大学教授岸本英夫博士の発案により、国内外の宗教を研究することにより、相互の理解を深め、人類文化の向上発展と平和に寄与しようという目的に基づいている。
国際宗教研究所に、宗教情報リサーチセンターの話がもちかけられたのは、オウム真理教、宗教法人法改正といった、宗教界を揺るがす出来事が相次いだ時期である。当時は、文化庁宗務課が宗教情報センターの設立を考えているという噂もながれていた。宗務課はそうした噂を否定しているが、官主導のこうした構想があってはならないと考えた人々は、独自の組織作りを計画した。その計画は複数あったようだが、結局どれも実現に至らなかった。
そうした中に、国際宗教研究所に白羽の矢が立ち、情報公開に関わるセンターを開設してくれないかということになった。さいわいにも、以前からわれわれは、宗教情報収集の作業を行っていた。新開や雑誌の宗教関係の記事を切り抜き、そのデータベースを作るということを始めていたのである。
そこで、この作業を一つの柱とし、さらにホームページを利用した人示教情報の公開、また関係する団体のネットワーク作りという二つの柱を加えることで、宗教情報リサーチセンターの名前にふさわしい活動ができると考えた。こういう経緯で開設されたので、ラークは、いわば宗教界の自浄努力を目指す趣旨を含んでいるといえる。また、その実施には主として研究者が関わるので、研究者の社会的責任も反映されている。懸案であったセンターの設置場所も、東京小石川の浄土宗伝通院内にある繊月会館の一室(約百平米)を借りることができた。また、昨年の日本宗教連盟の理事会で、ラークの活動に協賛するという決定がなされた。
現在は、ホームページを利用した教団情報の公開にカを入れている。また各団体に依頼して、その団体を理解するのに適切な基本的資料やビデオ類を寄贈してもらっている。インターネットを通じて、宗教情報にアクセスでき、またセンターに来れば、現代日本宗教の生きた姿が知れるというようにしたいと思っている。これらは宗教に関心はあるが、教会や寺院、神社にまで行くのはためらわれるという人への情報案内にある。学生と接していても、このような人は
意外に多いのである。将来は大学のゼミの実習などにも利用してもらえればと考えている。またマスコミ関係者へのオリエンテーションにも使いたいと思っている。
電子メディアの世界では、あふれるばかりの情報の中で信頼できる情報をいかに構築するかが、きわめて重要な課題になりつつある。信頼を高めるのは、ラークに関わるスタッフの努力であるが、内容を充実させるためには、宗教界の協力が不可欠である。アンケートへの回答や資料・データ類の寄贈には、ぜひご協力をいただきたい。また、ラークの意義を評価していただいて、協賛会員、あるいは個人会員になっていただければ、われわれもいっそうやりがいが増してくる。
宗教情報リサーチセンター
〒112-0002 東京都文京区小石川3-14-6 繊月会館二階
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