「宗教教育推進」問題についての要請書/京都仏教会(平成16年)

「宗教教育推進」問題についての要請書

平成16年(会報76‐4)

京都仏教会

「宗教教育推進」問題についての要請書

 教育基本法は昭和二十二年に公布・施行されました。憲法との関係が深く「憲法的法律」ともいわれています。その第九条が宗教教育に充てられ、次のように規定されています。

1、宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。

2、国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

 教育基本法の改定は制定以来幾度か議論されてきましたが、平成十二年七月の臨時国会で森喜郎首相(当時)が所信表明において同法を「抜本的に見直す必要がある」と発言。また、小淵内閣のもとで発足した教育改革国民会議は同年十二月の最終報告で「新しい時代にふさわしい教育基本法を」と提言いたしました。

 翌十三年十一月には遠山敦子文部科学大臣が中央教育審議会に教育基本法の見直しを諮問。同審議会は十四年十一月に中間報告、十五年三月二十日に最終答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」を遠山文科相に提出しております。

 教育基本法第九条に関しては、中教審のヒアリングを受けた日本宗教連盟が、十五年一月二十二日付で中教審に意見書を提出しました。日宗連はその中で、「公教育における宗教教育全般を禁止するかのような解釈を生む余地をなくすため」として、第二項の禁止の具体的規定として「特定の宗教のための宗派教育」という表現を用いることなどを提言しております。

 全日本仏教会もまた十五年二月四日付で中教審宛に「要請書」を提出し、「特定の宗教のための宗派教育」という表現の導入とともに、「日本の伝統文化の形成に寄与してきた宗教」という概念や「宗教的情操の涵養の尊重」を答申に盛り込むよう求めた旨、私たち加盟団体に対し報告がなされました。さらに宗教教育推進特別委員会を立ち上げ、公明党・共産党を除く主要政党や文部科学省への要請伝達・意見交換、加盟団体への趣旨説明など、教育基本法第九条改正のための活動を展開している、とうかがっております。

 ただし、貴会のこうした動きに関しては、主要加盟教団の一部からも批判の声が出始めております。広く社会を見渡しても、公教育における宗教教育については意見が大きく分かれているのが現実です。

 当会はかねて改定宗教法人法に関して、憲法が保障する信教の自由、政教分離の原則から、改定は違憲との立場で問題提起を行ってまいりましたが、それにつながる問題意識から「公教育における宗教教育」についても討議を重ねてきました。その結果、この教育基本法の改定問題も、平成七年の宗教法人法改定と同じく、国家と宗教の関係、政教分離、信教の自由の問題に深く関―10― 第76 号京都仏教会会報わっているという認識を深めました。

 そうした議論と背景を踏まえ、今年二月、私ども京都仏教会の代表は貴会と会合を持つに至りました。貴会からは宗教教育特別委員会の杉谷委員長をはじめ、小林事務総長(当時)など事務総局の方々が出席されました。この会合において、私どもは「日本の伝統文化の形成に寄与してきた宗教」「宗教的情操の涵養」という概念やその目指すところについて疑問を呈するとともに、加盟団体との充分な議論を経ることもなくいきなり「推進委員会」(検討委員会でなく)を立ち上げたのは何故かという手続き上の問題に関してもお訊ねいたしました。

 宗教に関する教育がきわめて重要であるという基本的な認識では、私ども京都仏教会も貴会と一致している、と考えております。ただし、以上に触れた点以外にも、まだまだ議論が必要な具体的な問題が数多く存在します。例えば、教育基本法改定と現行憲法の改定の動きが連動しているという指摘がなされておりますが(そして、今年の全日仏新年会では来賓の国会議員からそれを肯定する発言があったようですが)、貴会におかれましても宗教教育特別委の「教育基本法改正推進」と第九条を含む憲法改定との連動は是認されるところなのでしょうか?残念ながら現状は、このような深刻な疑問を積み残したまま、意図が理解しにくい「推進」の動きだけが独走している印象を否めません。

 私どもは少しでも多くの宗教者が「宗教に関する教育」の問題に認識を深め、「宗教に関する教育」のあるべきかたちをともに検討することが必要だ、と考えます。たとえ政界において宗教教育再検討の動きがあるとしても、こうした時局にこそ、加盟団体全ての英知を結集して、尚更慎重に議論を重ねるべきものではないでしようか。

 ここに、全日本仏教会に加盟する京都仏教会として、宗教教育推進特別委員会の活動と宗教教育推進に係わる貴会の既定方針をもういちど根本的に見直すようお願いするとともに、加盟団体を構成する一般の宗教者にもより開かれたかたちで「宗教に関する教育」の議論が展開されるよう提言いたします。 合掌           

    全日本仏教会 理事長 里見達人 殿
    京都仏教会 理事長 有馬頼底